様々な案件の経験を通じて
競争法を柱に

執行パートナー

川島 佑介(58期)

2004年東京大学法学部卒。 2013年~2015年にかけて、公正取引委員会事務総局審査局にて審査専門官(主査)として勤務。 2015年には客員研究員としてハーバード・ロースクールへ。 2018年より、日本経済新聞主催の「企業が選ぶ弁護士ランキング」に定期的に選ばれている。 競争法分野を柱とし、同分野で国際競争ネットワーク(International Competition Network(ICN))などの各種活動に参加している。毎日15000歩以上歩くよう心がけている。

様々な案件の経験を通じて競争法を柱に

ー2005年のY&P入所後、どのような案件に携わってきたのですか?

入所してから本当に幅広い案件に携わってきました。 今でもよく覚えていますが、入所して最初の案件は、日本国内の企業が米国発祥のフランチャイズ事業のフランチャイジーになることを全般的にサポートするというもので、英文のフランチャイズ契約のレビューはもちろんのこと、フランチャイザーとの交渉や業規制の調査等、幅広い業務を最初から経験することになりました。その後も、1年目から、敵対的買収やTOBを含むM&A案件に関与させていただきました。 入所してからの数年で経験した案件は多々ありますが、国内外のカルテル、下請法違反に係る当局調査、独禁法違反行為に対する巨額の損害賠償請求訴訟、船舶抵当設定を含む融資、不正調査など、若手の頃から一貫して本当に幅広くいろいろな分野の案件を担当してきたという印象です。

川島弁護士

ー幅広い案件を担当しつつも、独占禁止法(競争法)の案件を専門にされているとのことですが、独占禁止法(競争法)分野を専門とするようになった経緯を教えてください。

2013年~2015年の2年間、公正取引委員会で任期付公務員として勤務することになったのが大きな転機となったことは間違いありません。 「入所当時から競争法分野を専門とするつもりだったのか」と若手弁護士から質問を受けることがよくありますが、入所当時から競争法を専門にする計画があったわけではありません。入所以降、先ほど述べたような様々な案件を経験する中で、段々と競争法への関心が強くなり、さらに専門性を高めたいという思いから、公正取引委員会で勤務することを決意し、この分野を専門とするようになったというイメージです。

ー公正取引委員会での勤務を通じてどのようなことを得られましたか?

私は、審査部門で、審査専門官として違反事件や審判事件を担当していました。そのなかで、立入検査、証拠資料の精査、関係者へのヒアリング等を行って最終処分に進み、その後の審判対応に至るまでの一連の流れを経験しました。これらの経験を通じて、当局が最終処分やその後の対応を見据えながらどのように事件を組み立てていくかという点について、非常に有益な知見を得ることができたと考えています。

また、在局中に得られた人間関係も大きな財産です。公正取引委員会では、定期的に人事異動が行われますし、部門を跨いだプロジェクト等もあるため、当初の配属部以外の方々とも仕事をする機会に恵まれました。任期を終えて弁護士に戻り、違反事件や企業結合審査案件を担当する中で、かつて在局時に仕事をともにした方々とお会いする機会も多々あります。在局時の経験を通じて公正取引委員会としての視点もそれなりに備えることができたと思っていますし、相手もそのように理解してくださっていることもあると思います。公正取引委員会の担当官と率直に意見交換をすることができることは、案件解決に当たっても重要であると考えています。

逆説的に聞こえるかもしれませんが、「独禁法」分野に分類される案件の処理に当たり、独禁法の知見だけでは足りないということも、在局中に強く感じました。それも非常に良い経験だったと思っています。例えば、独禁法違反行為の一類型に「優越的地位の濫用」というものもあります。独禁法のなかではやや異質な違反行為として捉えられています。本題から外れるので長々と説明はしませんが、案件処理に当たり、独禁法に関する知見のみでは足りず、民商法の知見が不可欠です。

川島弁護士

専門色が濃くなることはあるが、
染まりきることはない

ー2015年にはハーバード・ロースクールの客員研究員に就任しています。

日本企業が世界で事業展開をしていくなかで、世界各地の競争法上の問題への対応を迫られることは珍しくありません。この分野を自分の柱として築き上げていくと決めたときに、日本の独禁法の知見を深めるだけではなく、欧米や他の国・地域の競争法をもっと深く勉強しようと思いました。その中でも、米国の競争法は、欧州と並んで非常に先進的な側面を有しており、研究する意義があるだろうと考えました。 公正取引委員会での任期付公務員としての職務を通じて日本の独禁法に係る知見を深めてから、2015年に客員研究員としてハーバード・ロースクールへ行きました。ハーバード・ロースクールは、教授陣、授業、施設等の全ての面で、米国競争法のみならず各国の競争法を研究する場所として非常に恵まれた環境でした。また、研究中には、単に学問的な研究に取り組むだけではなく、米国法律事務所の弁護士や裁判官とも情報交換したり、実務面からの研究をしたりすることもできて、大変有意義な経験となりました。

川島弁護士

ー帰国後は独占禁止法(競争法)の案件を多く取り扱うことになっていくのですか?

Y&Pの弁護士は、専門分野を持ったとしても、その専門分野に染まりきることはありません。私の場合、公正取引委員会での勤務経験やハーバード・ロースクールでの在外研究を活かして、競争法分野の案件を他の弁護士よりも多く取り扱ってはいますが、引き続き競争法分野以外の案件も幅広く取り扱っています。最近は、M&A、知財、不正調査、国際仲裁の案件が多いですね。また、Y&Pでは、訴訟を非常に重視しているため、法分野を問わず、訴訟案件を常に複数抱えています。

ー法分野という意味では幅広いということはわかりましたが、取り扱う業種という意味ではどうでしょうか?

取り扱う業種も幅広いです。クライアントの業種に偏りはなく、ほぼすべての業種に跨っているといっても過言ではないと思います。各種メーカー、金融機関、運輸、サービス業、医薬品・医療機器、広告代理店、映画・音楽、卸小売り、ベンチャーなど、クライアントは多岐にわたっており、特定の業種のご依頼の多寡を意識したことは特にありません。 企業法務の案件を取り扱う際は、法分野の知識は言うまでもなく、クライアントの展開する事業内容や市場環境等を正確に理解し、検討していく必要があります。ご相談いただく業種に偏りがないため、勉強は欠かせず、その意味では大変でもありますが、刺激に満ちていて、そこにやりがいがあると思っています。

川島弁護士

事務所として弁護士の成長を
全面的にバックアップ

ーY&Pに入所した弁護士は、どのように専門性を深めていくのでしょうか?

まず、大学やロースクールで勉強することと、実務で案件を経験することは全く違います。学生時代や司法試験の勉強をしていた時代に面白いと思っていた分野が必ずしも実務に出てからの専門の分野と一致するわけではありません。実務で経験してみて初めて面白さに気づくということは多々あるので、入所後最初の3年間くらいは、あまり専門性を強く意識することなく、まずは幅広い分野の案件に関与してもらいたいと思っています。今後の専門性を見極めていく点で有益ですし、専門の分野を持った後でも、いろいろな法分野の土地勘を持っていた方が総合的な視点から良い解決策を導けると思います。

いろいろな案件を経験していく中で、「この分野の案件は面白いな」、「この分野の案件では力が発揮できるな」と気づくケースが多いので、満遍なくいろいろな案件を担当してもらうことを基本方針にしつつ、関心分野を定期的に確認して、「この先生は今年こういうことがやりたいんだな」、「こういう法分野を柱としていきたいんだな」ということを事務所としても把握し、4年目以降はなるべく関心分野に沿った案件を担当してもらうようにしています。 関心分野を確認する機会として、定期的に面談の機会を設けていますが、それだけではなく、顔の見える環境にありますので、日々案件を一緒に担当する中での会話や、ランチに一緒に行った時などに情報交換し、ざっくばらんに話をしています。

川島弁護士

ー川島先生のように出向や留学を通じて専門性を深めていきたいと希望する弁護士もいると思います。

出向の機会は豊富ですし、留学についても大いに推奨しています。 私の場合は公正取引委員会でしたが、行政機関だけではなく、クライアントの会社に出向する機会も多くあります。出向が専門性を深めるきっかけになるのはもちろんですが、それだけではないと思っています。出向先では、一人の専門家たる弁護士としての見解を求められる場面が多く、そうした経験も積んでほしいですし、出向先の皆さんとの交流もいい経験になりますよね。出向から事務所に復帰した弁護士と案件を一緒にしていて、成長した姿を見ることができるのは事務所としても大変うれしいです。 留学についても、単に専門性を深めるだけではなく、日本と異なる文化、慣習、習慣を肌で感じてもらいたいです。家と教室との往復で留まるのはもったいないと思っています。折角の機会なので、大いに学び、そして、良い意味で大いに遊んでもらいたいですね。

専門性について補足して説明すると、自助努力で伸ばしていくことも大切だと思っています。研究会やセミナー、当局が開催しているシンポジウムなどに出席して知見を深めたり、他の事務所の先生方や専門家とのネットワークを広げていったりすることも大切だと思っています。事務所として、自分を成長させるための所外活動についても大いに推奨していますし、研究会や学会への参加に推薦が必要なものであれば推薦をするなど、サポートしており、専門性の強化や後押しになっていると思います。

ー若手弁護士の指導という意味ではどのような点に留意されているのでしょうか?

弁護士として何が大切かということを考えると、ひとつひとつの案件を「自分の力でしっかりと解決することができるかどうか」、「クライアントにとって満足のいく形で解決できるかどうか」が非常に大切だと考えています。 単に起案されたドラフトを直すだけでなく、この案件をどう解決していくか、クライアントとどう対峙していくかという点をなるべく早い段階から経験し、意識してほしいという思いで指導しています。 1年生であっても補助者や下働きとして案件に関与するのではなく、「案件の責任者として、この案件を担当することが求められている」という気概で臨んでほしいと常々話しています。こちらから一方的に指示をするのではなく、「あなたが責任者だったらどう解決しますか」とまずは考えてもらって、それを内部で議論しながら案件の解決を模索していくという指導のしかたをしています。

ー最後に、執行パートナーとして、Y&Pの雰囲気や体制作りで留意されている点について教えてください。

仕事をいかに楽しくできるかが重要だと思っています。公正取引委員会で勤務していたときに、配属先の課長が「仕事は楽しくやろう」と仰っていました。私は、この「仕事を楽しく」ということの意味について、「いかに自分がこの仕事を通して成長できるか」、「仕事にやりがいを見出すことができるか」というように、モチベーションを保ち続けながら積極的に仕事に取り組むことと捉えています。 Y&Pの雰囲気についても、どのようにすれば弁護士や秘書の皆さんがモチベーションを保つことができるかということに気をつけています。また、どんなに一生懸命仕事をしていても、案件がうまく進まなかったり、自分の思い描いている成長曲線にならなかったり、一生懸命に取り組んでいるからこそ悩む場面も多いのだと思います。そのようなときに、経験を積んだ弁護士の話を気軽に聞ける環境はとても大事だと思います。案件処理で相談に乗るということを超えて、日々困っていることや相談しづらいことを気軽に聞ける環境づくりに留意しています。積極的に相談できるタイプの人とそうでない人がいるので、こちらからもなるべく声掛けはするようにしていて、仕事の話にかかわらず、雑談も含めてコミュニケーションをとることを意識しています。

Y&Pは、アソシエイトとパートナー間での特定の紐づきはなく、同期を除けば、ほぼ全員と仕事をするため、事務所全体でチームワークを発揮して案件を処理していくところに特色があります。事務所全体で協調性を持ち、一丸となって仕事を進めていこうというのが事務所の根幹なので、根幹を維持・強化しながらお互いに成長していけるような環境づくりも重要です。

いろいろな弁護士と一緒に仕事ができることはY&Pの魅力のひとつだと思っています。パートナーだけでも10名超いて、各パートナーは目指すところが同じでも、それぞれ得意分野や仕事のスタイルは違うので、それぞれの良いところを真似して成長していくことができます。自分のお手本になるかもしれない学びの源泉がたくさんある点は、弁護士の成長にとって非常に重要なことだと思います。

弁護士として「案件を解決する力」を身につけたい、いろいろな案件にチャレンジしたいという方にとっては、大変恵まれた環境にある法律事務所であると自負しています。そのような点に魅力を感じてくれる方と一緒に仕事ができればうれしいです。